AMD CPU

最終更新日 : 2022/09/28

amd

PC向けCPUの二大巨頭といえばIntelAMDですが、AMDは近年、ライバルに大きく差を付けられていました。

AMDは、CPUとGPU(グラフィックチップ)の両方を手掛けるメーカーで、iGPU(CPU内蔵GPU)の評価は元から高かったのですが、CPUの方はあまり芳しくなかったのが実状でした。

しかし、満を持して投入した新ブランドは、Intelとの差を一気に縮めるほど強力なもので、CPU業界はかつての華やかな開発競争の時代の再来に盛り上がりを見せています。

ここでは、そんなAMDのCPUについて、お話ししようと思います。

世代別の解説とCPU / APU一覧

第6世代RyzenデスクトップCPU (Raphael)

発売年月2022/09
シリーズ名AMD Ryzen 7000 シリーズ
・デスクトップ・プロセッサー
コアアーキテクチャZen 4
GPUコアアーキテクチャRDNA 2
開発コードネームRaphael
プロセスルール5nm
ソケット (デスクトップ)Socket AM5
対応チップセットAMD 600シリーズ
対応メモリDDR5-5200
PCIe5.0

新アーキテクチャZen 4(ゼンフォー)を用いた最初の世代が、コードネームでRaphael(ラファエル)と呼ばれるデスクトップ向けRyzen 7000 シリーズです。前世代のZen 3+(ゼンスリープラス)にはデスクトップ向けCPUがありませんでしたので、Vermeer(フェルメール: 第4世代デスクトップCPU)から1世代飛ばしての登場ということになりました。

この世代はソケットメモリPCI Expressのバージョンも刷新された、非常に変化の多い世代です。その中でも最も大きな変化はGPUが内蔵されたことです。

AMDのプロセッサはiGPU(内蔵グラフィック)を含むものをAPU、含まないものをCPUと呼んで区別してきましたが、Cezanne(セザンヌ)デスクトップ向けAPUにiGPUを持たないものが登場したことで、この規則性は崩れていました。

ただ、これは例外的なケースと呼べたのですが、Ryzen 7000 シリーズデスクトップ向けCPUの最初にラインアップされた4モデル全てにiGPUが搭載されたため、AMDのCPUはiGPUを持たないという規則は、正式に撤廃されたと考えて良いでしょう

とはいえ、Ryzen 7000 シリーズデスクトップ向けCPUに搭載されるiGPUはコア数の少ない小規模なGPUですから、ひょっとするとAPUには高性能iGPUが搭載されるなどの差別化が図られるのかもしれません。


また、性能面も強化されました。特にクロック周波数は旧世代のVermeerと比べて700MHz~1GHzほども上昇するなど凄まじい進化が見られるのです。

ただ、その分TDPも上位モデルが105Wから170Wに、下位モデルも65Wから105Wに大幅に引き上げられていますので、やや無理矢理な印象も否めません。



CPU名C/TクロックTDPiGPU
Ryzen 9 7950X16/324.5/5.7170WRadeon Graphics 2
Ryzen 9 7900X12/244.7/5.6
Ryzen 7 7700X8/164.5/5.4105W
Ryzen 5 7600X6/124.7/5.3
サフィックス (末尾のアルファベット)
X-高性能
  • C/Tは、コア数 / スレッド数を表しています。
  • クロックは、定格クロック / ブーストクロックを表しています。


世代最初のラインアップはVermeer(前世代CPU)と同じでRyzen 92モデルRyzen 7Ryzen 5がそれぞれ1モデルずつとなっていますが、VermeerRyzen 7Ryzen 7 5800Xでしたので、数字に少しだけズレがあるようです。

ただ、コア数スレッド数はともに変わっていませんので、この点がやや残念です。

第5世代RyzenノートAPU (Rembrandt)

発売年月2022/01
シリーズ名AMD Ryzen 6000 シリーズ
・モバイル・プロセッサー
コアアーキテクチャZen 3+
GPUコアアーキテクチャRDNA 2
開発コードネームRembrandt
プロセスルール6nm
対応メモリDDR5-4800
LPDDR5-6400
PCIe4.0

コアアーキテクチャの名前がZen 3+(ゼンスリープラス)であることからも分かる通り、Rembrandt(レンブラント)世代は比較的小規模な変更に留まる世代といえます。ただ、iGPU(内蔵GPU)のコアアーキテクチャがGCNアーキテクチャからRDNA 2アーキテクチャに更新されましたので、グラフィック面は大きく進化しました。

また、消費電力の改善に力を入れた世代でもあり、特に消費電力当たりのパフォーマンスの高さAMDはアピールしています。



CPU名C/TクロックTDPiGPU
Ryzen 9 6980HX8/163.3/5.045WRadeon
680M
Ryzen 9 6980HS35W
Ryzen 9 6900HX3.3/4.945W
Ryzen 9 6900HS35W
Ryzen 7 6800H3.2/4.745W
Ryzen 7 6800HS35W
Ryzen 7 6800U2.7/4.715-28W
Ryzen 5 6600H6/123.3/4.545WRadeon
660M
Ryzen 5 6600HS35W
Ryzen 5 6600U2.9/4.515-28W
サフィックス (末尾のアルファベット)
H45Wハイパフォーマンス
(ゲーミングPC向け)
HS35W
U15 - 28W低消費電力 (薄型ノート向け)
X-オーバークロック対応
  • C/Tは、コア数 / スレッド数を表しています。
  • クロックは、定格クロック / ブーストクロックを表しています。


TDPとサフィックスについては、非常に分かりやすくなっています。この世代ではHゲーミング向けなどのハイパフォーマンスを、U薄型ノート向けなどの低消費電力をコンセプトにしています。

ただ、HにはTDP45WのHと、35WのHSの2種類があって、これら以外の数字やスペックが同じ兄弟のようなモデルが存在しています。つまり、45Wモデルとその低消費電力版の35Wモデルがペアとして存在するということです。また、45WのHも上位モデルはオーバークロックに対応したHXになっていますので、OCを考えている人はこちらを選ぶ必要があります。

第4世代RyzenデスクトップAPU (Cezanne)

発売年月2021/08
シリーズ名AMD Ryzen 5000 G シリーズ
・デスクトップ・プロセッサー
コアアーキテクチャZen 3
GPUコアアーキテクチャGCN (Vega)
開発コードネームCezanne
プロセスルール7nm
ソケットSocket AM4
対応チップセットAMD 500シリーズ
AMD 400シリーズ
AMD 300シリーズ
対応メモリDDR4-3200
PCIe3.0

躍進を遂げたZen 3アーキテクチャのコアを採用していますので、Cezanne(セザンヌ)世代のAPUも前世代から大きく性能を伸ばしてきました。

デスクトップ向けAPUは伝統的にデスクトップ向けCPUの下位クラスを担う役割を与えられてきましたが、この世代も引き続きVermeerの下位クラスを担当しています。

しかし、後にVermeer自身に下位クラスが追加されたり、この世代にRyzen 5 5500というiGPU(内蔵GPU)を持たないAPUが追加されたりとデスクトップ向けAPUの位置付けが少しずつ変わってきているような印象です。



CPU名C/TクロックTDPiGPU
Ryzen 7 5700G8/163.8/4.665WRadeon
Graphics 8
Ryzen 7 5700GE3.2/4.635W
Ryzen 5 5600G6/123.9/4.465WRadeon
Graphics 7
Ryzen 5 5600GE3.4/4.435W
Ryzen 5 55003.6/4.265W-
サフィックス (末尾のアルファベット)
G65Wデスクトップ向けAPU
E35W低消費電力
  • C/Tは、コア数 / スレッド数を表しています。
  • クロックは、定格クロック / ブーストクロックを表しています。


RyzenデスクトップAPUの命名規則は非常にシンプルです。まず、全てのデスクトップAPUにGが付きます。そして、低消費電力モデルにはさらにEが付きます

また、先ほどもお話ししましたが、2022年4月にiGPUを持たないRyzen 5 5500が新たに仲間に加わりましたので、APUとCPUの決定的な違いが、これにより崩れたことになります。

第4世代RyzenノートAPU (Cezanne)

発売年月2021/01
シリーズ名AMD Ryzen 5000 シリーズ
・モバイル・プロセッサー
コアアーキテクチャZen 3
GPUコアアーキテクチャGCN (Vega)
開発コードネームCezanne
Lucienne (Zen 2)
プロセスルール7nm
対応メモリDDR4-3200
LPDDR4X-4266
PCIe3.0

シングルスレッド性能が大きく向上したZen 3アーキテクチャを初めて採用したのがノート向けAPUCezanne(セザンヌ)です。他にも様々な改善がなされているため、トータルの性能も前世代である第3世代RyzenノートAPU Renoir(ルノワール)から大きくパワーアップしました。

ただ、GPUコアアーキテクチャは前世代と同じGCNコアアーキテクチャベースのVega(ヴェガ)ですので、それほど大きな差はありません。


また、この世代は少し複雑な構成となっています。実はCezanneと同日にRenoir世代と同じZen 2アーキテクチャで作られた、コードネームでLucienne(リュシエンヌ)と呼ばれる3つのCPUも発売になっているのです。

つまり、LucienneAMD Ryzen 5000 シリーズ・モバイル・プロセッサーの仲間ながらベースは1世代前で、さらに多少の改良も施されていますので、いわば第3.5世代といった立ち位置になるということです。ご注意下さい。



サフィックス (末尾のアルファベット)
HX45+Wハイパフォーマンス
+オーバークロック対応
H45Wハイパフォーマンス
HS35W
U15W低消費電力
CPU名C/TクロックTDPiGPU
Ryzen 9 5980HX8/163.3/4.845+WRadeon
Graphics 8
Ryzen 9 5980HS3.0/4.835W
Ryzen 9 5900HX3.3/4.645+W
Ryzen 9 5900HS3.0/4.635W
Ryzen 7 5800H3.2/4.445W
Ryzen 7 5800HS2.8/4.435W
Ryzen 7 5800U1.9/4.415W
Ryzen 5 5600H6/123.3/4.245WRadeon
Graphics 7
Ryzen 5 5600HS3.0/4.235W
Ryzen 5 5600U2.3/4.215W
Ryzen 3 5400U4/82.6/4.0Radeon
Graphics 6
CPU名C/TクロックTDPiGPU
Ryzen 7 5700U8/161.8/4.315WRadeon
Graphics 8
Ryzen 5 5500U6/122.1/4.0Radeon
Graphics 7
Ryzen 3 5300U4/82.6/3.8Radeon
Graphics 6
  • C/Tは、コア数 / スレッド数を表しています。
  • クロックは、定格クロック / ブーストクロックを表しています。


TDPとサフィックスについては、比較的分かりやすい関係といえるでしょう。基本的にはH高性能なハイパフォーマンスを、U低消費電力を意味しています。

ただ、Hには上位クラスで使われているTDP45W以上HXと、ミドルクラス以下で使われる45WHがあって、これらとモデルナンバーの数字が同じで低消費電力版のようなポジションにある35WHS計3種類が存在します。

つまり、45W+モデル、あるいは45Wモデルとその低消費電力版の35Wモデルがペアとして存在するということですが、35Wノート向けCPUとしては高めのTDPですので、性能差はそれほどありません。


また、先ほどお話ししたコアアーキテクチャの異なるLucienne世代のCPUとは、Ryzen 7 5700URyzen 5 5500URyzen 3 5300U3つのCPUのことです。

表からも分かるかと思いますが、Cezanne世代にはLucienneとは百の位の数字が1つだけ大きい良く似たモデルがありますので、注意が必要です。

第4世代RyzenデスクトップCPU (Vermeer)

発売年月2020/11
2022/04
シリーズ名AMD Ryzen 5000 シリーズ
・デスクトップ・プロセッサー
コアアーキテクチャZen 3
GPUコアアーキテクチャ-
開発コードネームVermeer
プロセスルール7nm
ソケット (デスクトップ)Socket AM4
対応チップセットAMD 500シリーズ
AMD 400シリーズ
AMD 300シリーズ
対応メモリDDR4-3200
PCIe4.0

マルチスレッド性能では定評のあったAMDでしたが、Vermeer(フェルメール)世代のCPUによって、ついにシングルスレッド性能でもライバルIntel(第10世代Core)に勝利を収めました。

Vermeer2020年11月に登場しましたが、当初はRyzen 9 5950XRyzen 9 5900XRyzen 7 5800XRyzen 5 5600X4モデルのみという寂しいラインアップでした。しかし、そのどれもがそれぞれの価格、性能帯でライバルを圧倒した訳ですから、まさに少数精鋭と呼ぶに相応しい布陣だったいえるでしょう。


その後、1年半ほどの時を経て、Vermeer世代のCPUに新たな仲間が加わりました。Ryzen 7 5800X3DRyzen 7 5700XRyzen 5 5600Ryzen 5 55004モデルです。

中でも注目を集めたのはRyzen 7 5800X3Dです。このCPUはRyzen 7 5800Xよりも少しクロック周波数が下げられたため、各種ベンチマークテストで遅れを取るデータを多く見かけます。しかし、AMDはこのCPUを最高のゲーミングCPUとアピールしているのです。

その理由は3D V-Cacheと呼ばれる縦に積まれたL3キャッシュメモリにあります。Ryzen 7 5800X3Dはこの技術を使って、Ryzen 7 5800X3倍に当たる96MBもの大容量L3キャッシュを備えているのです。そのため、キャッシュが良く効くソフトにおけるRyzen 7 5800X3Dは、スペック以上のパフォーマンスを発揮することになるという訳です。しかも、ハイスペックCPUにしては消費電力が比較的低いため、ワットパフォーマンス(電力効率)にも定評があります。

とはいえ、そのポテンシャルを遺憾なく発揮できるソフトはあまり多くはありませんので、過度の期待は禁物です。



サフィックス (末尾のアルファベット)
X高性能
無印通常モデル
CPU名C/TクロックTDPiGPU
Ryzen 9 5950X16/323.4/4.9105W-
Ryzen 9 5900X12/243.7/4.8
Ryzen 7 5800X3D8/163.4/4.5
Ryzen 7 5800X3.8/4.7
Ryzen 7 5700X3.4/4.665W
Ryzen 5 5600X6/123.7/4.6
Ryzen 5 56003.5/4.4
Ryzen 5 55003.6/4.2
  • C/Tは、コア数 / スレッド数を表しています。
  • クロックは、定格クロック / ブーストクロックを表しています。


技術

SenseMIテクノロジー

AMDSenseMIテクノロジー とは、CPUの電圧や温度、クロック周波数などに関する技術の総称です。代表的な機能には、以下のようなものがあります。


Pure Power

負荷があまり掛かっていない時に、消費電力を下げつつもパフォーマンスは下げないという、効率的な働きを行う機能です。

Precision Boost

負荷に応じて、リアルタイムでクロックを上げ下げする機能です。IntelTurbo Boostと似たような機能ですが、TBは100MHz単位で、こちらは25MHz単位で動作するため、より細かい制御が可能になります。

AMDはかつてTBに相当する機能をTurbo CORE(ターボコア)と呼んでいましたが、現在はPrecision Boostに置き換わったようです。

Extended Frequency Range(XFR)

直訳すると拡張周波数帯域となります。しっかりとした冷却システムで充分に冷やされていれば、最大クロックの枠を超えて、さらなるブーストが掛かる機能です。



これらだけではありませんが、以上が主な機能となります。

CPUの性能はクロック周波数に比例し、クロックは電力や熱と比例するため、性能を発揮するにはこれらの管理が非常に重要になりますが、AMD SenseMIテクノロジーとは、まさにその管理の中核を担う技術の集まりなのです。