amd
PC向けCPUの二大巨頭といえばIntelとAMDですが、AMDは近年、ライバルに大きく差を付けられていました。
AMDは、CPUとGPU(グラフィックチップ)の両方を手掛けるメーカーで、iGPU(CPU内蔵GPU)の評価は元から高かったのですが、CPUの方はあまり芳しくなかったのが実状でした。
しかし、満を持して投入した新ブランドは、Intelとの差を一気に縮めるほど強力なもので、CPU業界はかつての華やかな開発競争の時代の再来に盛り上がりを見せています。
ここでは、そんなAMDのCPUについて、お話ししようと思います。
発売年月 | 2022/09 |
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シリーズ名 | AMD Ryzen 7000 シリーズ ・デスクトップ・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 4 |
GPUコアアーキテクチャ | RDNA 2 |
開発コードネーム | Raphael |
プロセスルール | 5nm |
ソケット (デスクトップ) | Socket AM5 |
対応チップセット | AMD 600シリーズ |
対応メモリ | DDR5-5200 |
PCIe | 5.0 |
新アーキテクチャZen 4(ゼンフォー)を用いた最初の世代が、コードネームでRaphael(ラファエル)と呼ばれるデスクトップ向けのRyzen 7000 シリーズです。前世代のZen 3+(ゼンスリープラス)にはデスクトップ向けCPUがありませんでしたので、Vermeer(フェルメール: 第4世代デスクトップCPU)から1世代飛ばしての登場ということになりました。
この世代はソケットもメモリもPCI Expressのバージョンも刷新された、非常に変化の多い世代です。その中でも最も大きな変化はGPUが内蔵されたことです。
AMDのプロセッサはiGPU(内蔵グラフィック)を含むものをAPU、含まないものをCPUと呼んで区別してきましたが、Cezanne(セザンヌ)のデスクトップ向けAPUにiGPUを持たないものが登場したことで、この規則性は崩れていました。
ただ、これは例外的なケースと呼べたのですが、Ryzen 7000 シリーズのデスクトップ向けCPUの最初にラインアップされた4モデル全てにiGPUが搭載されたため、AMDのCPUはiGPUを持たないという規則は、正式に撤廃されたと考えて良いでしょう。
とはいえ、Ryzen 7000 シリーズのデスクトップ向けCPUに搭載されるiGPUはコア数の少ない小規模なGPUですから、ひょっとするとAPUには高性能iGPUが搭載されるなどの差別化が図られるのかもしれません。
また、性能面も強化されました。特にクロック周波数は旧世代のVermeerと比べて700MHz~1GHzほども上昇するなど凄まじい進化が見られるのです。
ただ、その分TDPも上位モデルが105Wから170Wに、下位モデルも65Wから105Wに大幅に引き上げられていますので、やや無理矢理な印象も否めません。
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
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Ryzen 9 7950X | 16/32 | 4.5/5.7 | 170W | Radeon Graphics 2 |
Ryzen 9 7900X | 12/24 | 4.7/5.6 | ||
Ryzen 7 7700X | 8/16 | 4.5/5.4 | 105W | |
Ryzen 5 7600X | 6/12 | 4.7/5.3 |
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
---|---|---|
X | - | 高性能 |
世代最初のラインアップはVermeer(前世代CPU)と同じでRyzen 9が2モデル、Ryzen 7とRyzen 5がそれぞれ1モデルずつとなっていますが、VermeerはRyzen 7がRyzen 7 5800Xでしたので、数字に少しだけズレがあるようです。
ただ、コア数、スレッド数はともに変わっていませんので、この点がやや残念です。
発売年月 | 2022/01 |
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シリーズ名 | AMD Ryzen 6000 シリーズ ・モバイル・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 3+ |
GPUコアアーキテクチャ | RDNA 2 |
開発コードネーム | Rembrandt |
プロセスルール | 6nm |
対応メモリ | DDR5-4800 LPDDR5-6400 |
PCIe | 4.0 |
コアアーキテクチャの名前がZen 3+(ゼンスリープラス)であることからも分かる通り、Rembrandt(レンブラント)世代は比較的小規模な変更に留まる世代といえます。ただ、iGPU(内蔵GPU)のコアアーキテクチャがGCNアーキテクチャからRDNA 2アーキテクチャに更新されましたので、グラフィック面は大きく進化しました。
また、消費電力の改善に力を入れた世代でもあり、特に消費電力当たりのパフォーマンスの高さをAMDはアピールしています。
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
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Ryzen 9 6980HX | 8/16 | 3.3/5.0 | 45W | Radeon 680M |
Ryzen 9 6980HS | 35W | |||
Ryzen 9 6900HX | 3.3/4.9 | 45W | ||
Ryzen 9 6900HS | 35W | |||
Ryzen 7 6800H | 3.2/4.7 | 45W | ||
Ryzen 7 6800HS | 35W | |||
Ryzen 7 6800U | 2.7/4.7 | 15-28W | ||
Ryzen 5 6600H | 6/12 | 3.3/4.5 | 45W | Radeon 660M |
Ryzen 5 6600HS | 35W | |||
Ryzen 5 6600U | 2.9/4.5 | 15-28W |
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
---|---|---|
H | 45W | ハイパフォーマンス (ゲーミングPC向け) |
HS | 35W | |
U | 15 - 28W | 低消費電力 (薄型ノート向け) |
X | - | オーバークロック対応 |
TDPとサフィックスについては、非常に分かりやすくなっています。この世代ではHがゲーミング向けなどのハイパフォーマンスを、Uが薄型ノート向けなどの低消費電力をコンセプトにしています。
ただ、HにはTDP45WのHと、35WのHSの2種類があって、これら以外の数字やスペックが同じ兄弟のようなモデルが存在しています。つまり、45Wモデルとその低消費電力版の35Wモデルがペアとして存在するということです。また、45WのHも上位モデルはオーバークロックに対応したHXになっていますので、OCを考えている人はこちらを選ぶ必要があります。
発売年月 | 2021/08 |
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シリーズ名 | AMD Ryzen 5000 G シリーズ ・デスクトップ・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 3 |
GPUコアアーキテクチャ | GCN (Vega) |
開発コードネーム | Cezanne |
プロセスルール | 7nm |
ソケット | Socket AM4 |
対応チップセット | AMD 500シリーズ AMD 400シリーズ AMD 300シリーズ |
対応メモリ | DDR4-3200 |
PCIe | 3.0 |
躍進を遂げたZen 3アーキテクチャのコアを採用していますので、Cezanne(セザンヌ)世代のAPUも前世代から大きく性能を伸ばしてきました。
デスクトップ向けAPUは伝統的にデスクトップ向けCPUの下位クラスを担う役割を与えられてきましたが、この世代も引き続きVermeerの下位クラスを担当しています。
しかし、後にVermeer自身に下位クラスが追加されたり、この世代にRyzen 5 5500というiGPU(内蔵GPU)を持たないAPUが追加されたりとデスクトップ向けAPUの位置付けが少しずつ変わってきているような印象です。
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
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Ryzen 7 5700G | 8/16 | 3.8/4.6 | 65W | Radeon Graphics 8 |
Ryzen 7 5700GE | 3.2/4.6 | 35W | ||
Ryzen 5 5600G | 6/12 | 3.9/4.4 | 65W | Radeon Graphics 7 |
Ryzen 5 5600GE | 3.4/4.4 | 35W | ||
Ryzen 5 5500 | 3.6/4.2 | 65W | - |
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
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G | 65W | デスクトップ向けAPU |
E | 35W | 低消費電力 |
RyzenデスクトップAPUの命名規則は非常にシンプルです。まず、全てのデスクトップAPUにGが付きます。そして、低消費電力モデルにはさらにEが付きます。
また、先ほどもお話ししましたが、2022年4月にiGPUを持たないRyzen 5 5500が新たに仲間に加わりましたので、APUとCPUの決定的な違いが、これにより崩れたことになります。
発売年月 | 2021/01 |
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シリーズ名 | AMD Ryzen 5000 シリーズ ・モバイル・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 3 |
GPUコアアーキテクチャ | GCN (Vega) |
開発コードネーム | Cezanne Lucienne (Zen 2) |
プロセスルール | 7nm |
対応メモリ | DDR4-3200 LPDDR4X-4266 |
PCIe | 3.0 |
シングルスレッド性能が大きく向上したZen 3アーキテクチャを初めて採用したのがノート向けAPUのCezanne(セザンヌ)です。他にも様々な改善がなされているため、トータルの性能も前世代である第3世代RyzenノートAPU Renoir(ルノワール)から大きくパワーアップしました。
ただ、GPUコアアーキテクチャは前世代と同じGCNコアアーキテクチャベースのVega(ヴェガ)ですので、それほど大きな差はありません。
また、この世代は少し複雑な構成となっています。実はCezanneと同日にRenoir世代と同じZen 2アーキテクチャで作られた、コードネームでLucienne(リュシエンヌ)と呼ばれる3つのCPUも発売になっているのです。
つまり、LucienneはAMD Ryzen 5000 シリーズ・モバイル・プロセッサーの仲間ながらベースは1世代前で、さらに多少の改良も施されていますので、いわば第3.5世代といった立ち位置になるということです。ご注意下さい。
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
---|---|---|
HX | 45+W | ハイパフォーマンス +オーバークロック対応 |
H | 45W | ハイパフォーマンス |
HS | 35W | |
U | 15W | 低消費電力 |
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
---|---|---|---|---|
Ryzen 9 5980HX | 8/16 | 3.3/4.8 | 45+W | Radeon Graphics 8 |
Ryzen 9 5980HS | 3.0/4.8 | 35W | ||
Ryzen 9 5900HX | 3.3/4.6 | 45+W | ||
Ryzen 9 5900HS | 3.0/4.6 | 35W | ||
Ryzen 7 5800H | 3.2/4.4 | 45W | ||
Ryzen 7 5800HS | 2.8/4.4 | 35W | ||
Ryzen 7 5800U | 1.9/4.4 | 15W | ||
Ryzen 5 5600H | 6/12 | 3.3/4.2 | 45W | Radeon Graphics 7 |
Ryzen 5 5600HS | 3.0/4.2 | 35W | ||
Ryzen 5 5600U | 2.3/4.2 | 15W | ||
Ryzen 3 5400U | 4/8 | 2.6/4.0 | Radeon Graphics 6 |
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
---|---|---|---|---|
Ryzen 7 5700U | 8/16 | 1.8/4.3 | 15W | Radeon Graphics 8 |
Ryzen 5 5500U | 6/12 | 2.1/4.0 | Radeon Graphics 7 | |
Ryzen 3 5300U | 4/8 | 2.6/3.8 | Radeon Graphics 6 |
TDPとサフィックスについては、比較的分かりやすい関係といえるでしょう。基本的にはHが高性能なハイパフォーマンスを、Uが低消費電力を意味しています。
ただ、Hには上位クラスで使われているTDP45W以上のHXと、ミドルクラス以下で使われる45WのHがあって、これらとモデルナンバーの数字が同じで低消費電力版のようなポジションにある35WのHSの計3種類が存在します。
つまり、45W+モデル、あるいは45Wモデルとその低消費電力版の35Wモデルがペアとして存在するということですが、35Wはノート向けCPUとしては高めのTDPですので、性能差はそれほどありません。
また、先ほどお話ししたコアアーキテクチャの異なるLucienne世代のCPUとは、Ryzen 7 5700U、Ryzen 5 5500U、Ryzen 3 5300Uの3つのCPUのことです。
表からも分かるかと思いますが、Cezanne世代にはLucienneとは百の位の数字が1つだけ大きい良く似たモデルがありますので、注意が必要です。
発売年月 | 2020/11 2022/04 |
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シリーズ名 | AMD Ryzen 5000 シリーズ ・デスクトップ・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 3 |
GPUコアアーキテクチャ | - |
開発コードネーム | Vermeer |
プロセスルール | 7nm |
ソケット (デスクトップ) | Socket AM4 |
対応チップセット | AMD 500シリーズ AMD 400シリーズ AMD 300シリーズ |
対応メモリ | DDR4-3200 |
PCIe | 4.0 |
マルチスレッド性能では定評のあったAMDでしたが、Vermeer(フェルメール)世代のCPUによって、ついにシングルスレッド性能でもライバルIntel(第10世代Core)に勝利を収めました。
Vermeerは2020年11月に登場しましたが、当初はRyzen 9 5950X、Ryzen 9 5900X、Ryzen 7 5800X、Ryzen 5 5600Xの4モデルのみという寂しいラインアップでした。しかし、そのどれもがそれぞれの価格、性能帯でライバルを圧倒した訳ですから、まさに少数精鋭と呼ぶに相応しい布陣だったいえるでしょう。
その後、1年半ほどの時を経て、Vermeer世代のCPUに新たな仲間が加わりました。Ryzen 7 5800X3D、Ryzen 7 5700X、Ryzen 5 5600、Ryzen 5 5500の4モデルです。
中でも注目を集めたのはRyzen 7 5800X3Dです。このCPUはRyzen 7 5800Xよりも少しクロック周波数が下げられたため、各種ベンチマークテストで遅れを取るデータを多く見かけます。しかし、AMDはこのCPUを最高のゲーミングCPUとアピールしているのです。
その理由は3D V-Cacheと呼ばれる縦に積まれたL3キャッシュメモリにあります。Ryzen 7 5800X3Dはこの技術を使って、Ryzen 7 5800Xの3倍に当たる96MBもの大容量L3キャッシュを備えているのです。そのため、キャッシュが良く効くソフトにおけるRyzen 7 5800X3Dは、スペック以上のパフォーマンスを発揮することになるという訳です。しかも、ハイスペックCPUにしては消費電力が比較的低いため、ワットパフォーマンス(電力効率)にも定評があります。
とはいえ、そのポテンシャルを遺憾なく発揮できるソフトはあまり多くはありませんので、過度の期待は禁物です。
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
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X | 高性能 | |
無印 | 通常モデル |
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
---|---|---|---|---|
Ryzen 9 5950X | 16/32 | 3.4/4.9 | 105W | - |
Ryzen 9 5900X | 12/24 | 3.7/4.8 | ||
Ryzen 7 5800X3D | 8/16 | 3.4/4.5 | ||
Ryzen 7 5800X | 3.8/4.7 | |||
Ryzen 7 5700X | 3.4/4.6 | 65W | ||
Ryzen 5 5600X | 6/12 | 3.7/4.6 | ||
Ryzen 5 5600 | 3.5/4.4 | |||
Ryzen 5 5500 | 3.6/4.2 |
AMDSenseMIテクノロジー とは、CPUの電圧や温度、クロック周波数などに関する技術の総称です。代表的な機能には、以下のようなものがあります。
負荷があまり掛かっていない時に、消費電力を下げつつもパフォーマンスは下げないという、効率的な働きを行う機能です。
負荷に応じて、リアルタイムでクロックを上げ下げする機能です。IntelのTurbo Boostと似たような機能ですが、TBは100MHz単位で、こちらは25MHz単位で動作するため、より細かい制御が可能になります。
AMDはかつてTBに相当する機能をTurbo CORE(ターボコア)と呼んでいましたが、現在はPrecision Boostに置き換わったようです。
直訳すると拡張周波数帯域となります。しっかりとした冷却システムで充分に冷やされていれば、最大クロックの枠を超えて、さらなるブーストが掛かる機能です。
これらだけではありませんが、以上が主な機能となります。
CPUの性能はクロック周波数に比例し、クロックは電力や熱と比例するため、性能を発揮するにはこれらの管理が非常に重要になりますが、AMD SenseMIテクノロジーとは、まさにその管理の中核を担う技術の集まりなのです。