PC向けCPUの二大巨頭といえばIntelとAMDですが、AMDは近年、ライバルに大きく差を付けられていました。
AMDは、CPUとGPU(グラフィックチップ)の両方を手掛けるメーカーで、iGPU(CPU内蔵GPU)の評価は元から高かったのですが、CPUの方はあまり芳しくなかったのが実状でした。
しかし、満を持して投入した新ブランドは、Intelとの差を一気に縮めるほど強力なもので、CPU業界はかつての華やかな開発競争の時代の再来に盛り上がりを見せています。
ここでは、そんなAMDのCPUについて、お話ししようと思います。
ここではAMDのプロセッサーに関係する様々な名称や用語についてお話しします。
ただし、世代やアーキテクチャ、コードネームなどに関しては、以下のページで解説していますので、是非ご一読ください。
プログラムを処理する装置のことをCPU(Central Processing Unit)といいますが、AMDではiGPU(内蔵グラフィックス)の有無によって呼び方を変えています。iGPUを含まないものをCPU、含むものをAPU(Accelerated Processing Unit)と呼んで区別しているのです。
さらに、CPUには通常デスクトップ向けとノート向けがありますので、デスクトップ向けCPU / APUとノート向けCPU / APUの4種類に分類できることになりますが、AMDのプロセッサーにはノート向けCPUは存在しません。
ノートPCはスペースの関係上dGPU(グラフィックボード)の設置が難しくなります。よって、ノート向けはdGPUが不要なAPUに全て任せるというのがAMDの考えなのでしょう。
ただ、近年はiGPUを持つCPUが登場するなど、CPUとAPUの壁は徐々に崩れてきています。とはいえ、CPUに搭載されているiGPUは非常に低性能ですので、パワーにより区別する方針なのかもしれません。
AMDはプロセッサーの型番のことをモデルナンバーと呼んでいます。モデルナンバーは意味のあるアルファベットと数字で構成されています。実在のCPURyzen 9 7950Xを例にモデルナンバーの意味についてお話しします。
ブランド名 | 世代 | 相対性能 | サフィックス |
---|---|---|---|
Ryzen 9 | 7 | 950 | X |
Ryzen(ライゼン)はAMDの現在のPC向けCPUの主力ブランドの名前です。これは後ろに続く数字によってさらに細かく分類され、現在はRyzen 9、Ryzen 7、Ryzen 5、Ryzen 3の4つのブランドが存在します。数字が大きいほど上位ブランドとなります。
また、Intelも同様の命名規則を持っていますが、AMDが後から合わせに行った形となっています。
続く4桁の数字の最上位桁は世代を表します。基本的には、新世代のCPUが登場するごとにこの数字が1つずつ上がっていきます。
4桁の数字の下3桁は相対的な性能を表しています。数字が大きいほど高性能ですが、どちらかというと格を表すといった方が的確かもしれません。
また、百の位の数字はブランドにより使われる数字が決まっています。
ブランド名 | 数字 |
---|---|
Ryzen 9 | 9 |
Ryzen 7 | 8, 7 |
Ryzen 5 | 6, 5 |
Ryzen 3 | 4, 3, 2, 1 |
Ryzen 7ならばRyzen 7 x8xxやRyzen x7xxといった形になるということです。
最後のサフィックス(接尾辞)についてですが、これはモデルナンバーの最後に付くアルファベットで、製品のコンセプトを表すものです。
サフィックス | コンセプト |
---|---|
デスクトップ向けCPU | |
X | 高性能 |
3D | 大容量キャッシュメモリ |
デスクトップ向けAPU | |
G | 全モデル共通 |
E | 低消費電力 |
ノート向けAPU | |
X | オーバークロック対応 |
H | ハイパフォーマンス (ゲーミングPC向け) |
HS | |
U | 低消費電力 (薄型ノート向け) |
CPU / APU、デスクトップ向け / ノート向けで、それぞれ使われるサフィックスは異なります。
まず、デスクトップ向けCPUについてですが、基本は何も付かない無印で、Xが付くものは消費電力の高い高性能モデルになります。
3Dは厳密にいうとサフィックスとは呼べないかもしれません。これはキャッシュメモリというCPUの内部にあるメモリが大容量化されたモデルで、ゲームなど一部の用途で非常に高い効果を発揮します。
次にデスクトップ向けAPUについてですが、Gは全てのモデルに付くサフィックスです。つまり、モデルナンバーにGがあるかないかでデスクトップ向けAPUであるかどうかが判別できるという訳です。
Eは低消費電力を意味するサフィックスですが、全モデルにGが付いていますので、実際にはGEという表記になります。
最後にノート向けAPUについてです。
Xはオーバークロックに対応しているモデルに付きます。
HとHSはゲーミングPCに使われるようなハイパワーなモデルであることを表しています。
Uは低消費電力を意味しますが、ノートPCにはバッテリーの持ちが良く発熱も少ない低消費電力モデルは非常に有益です。
以上がモデルナンバーを構成するアルファベットや数字のおおよその意味になりますが、世代によって使われる文字や意味が異なる場合もありますので、注意が必要です。
発売年月 | 2022/01 |
---|---|
シリーズ名 | AMD Ryzen 6000 シリーズ ・モバイル・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 3+ |
GPUコアアーキテクチャ | RDNA 2 |
開発コードネーム | Rembrandt |
プロセスルール | 6nm |
対応メモリ | DDR5-4800 LPDDR5-6400 |
PCIe | 4.0 |
コアアーキテクチャの名前がZen 3+(ゼンスリープラス)であることからも分かる通り、Ryzen 6000シリーズ・ノートAPU世代は比較的小規模な変更に留まる世代といえます。ただ、iGPU(内蔵GPU)のコアアーキテクチャがGCNからRDNA 2に更新されましたので、グラフィック面は大きく進化しました。
また、消費電力の改善に力を入れた世代でもあり、特に消費電力当たりのパフォーマンスの高さをAMDはアピールしています。
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
---|---|---|---|---|
Ryzen 9 6980HX | 8/16 | 3.3/5.0 | 45W | Radeon 680M |
Ryzen 9 6980HS | 35W | |||
Ryzen 9 6900HX | 3.3/4.9 | 45W | ||
Ryzen 9 6900HS | 35W | |||
Ryzen 7 6800H | 3.2/4.7 | 45W | ||
Ryzen 7 6800HS | 35W | |||
Ryzen 7 6800U | 2.7/4.7 | 15-28W | ||
Ryzen 5 6600H | 6/12 | 3.3/4.5 | 45W | Radeon 660M |
Ryzen 5 6600HS | 35W | |||
Ryzen 5 6600U | 2.9/4.5 | 15-28W |
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
---|---|---|
H | 45W | ハイパフォーマンス (ゲーミングPC向け) |
HS | 35W | |
U | 15 - 28W | 低消費電力 (薄型ノート向け) |
X | - | オーバークロック対応 |
TDPとサフィックスについては、非常に分かりやすくなっています。この世代ではHがゲーミング向けなどのハイパフォーマンスを、Uが薄型ノート向けなどの低消費電力をコンセプトにしています。
ただ、HにはTDP45WのHと、35WのHSの2種類があって、これら以外の数字やスペックが同じ兄弟のようなモデルが存在しています。つまり、45Wモデルとその低消費電力版の35Wモデルがペアとして存在するということです。また、45WのHも上位モデルはオーバークロックに対応したHXになっていますので、OCを考えている人はこちらを選ぶ必要があります。
発売年月 | 2021/08 |
---|---|
シリーズ名 | AMD Ryzen 5000 G シリーズ ・デスクトップ・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 3 |
GPUコアアーキテクチャ | GCN (Vega) |
開発コードネーム | Cezanne |
プロセスルール | 7nm |
ソケット | Socket AM4 |
対応チップセット | AMD 500シリーズ AMD 400シリーズ AMD 300シリーズ |
対応メモリ | DDR4-3200 |
PCIe | 3.0 |
躍進を遂げたZen 3アーキテクチャのコアを採用していますので、Ryzen 5000シリーズ世代のAPUも前世代から性能を大きく伸ばしてきました。
デスクトップAPUは伝統的にデスクトップCPUの下位クラスを担う役割を与えられてきましたが、この世代でもそれは変わっていません。
しかし、後にRyzen 5000シリーズ・デスクトップCPU自身に下位クラスが追加されたり、この世代にRyzen 5 5500というiGPU(内蔵GPU)を持たないAPUが追加されたりとデスクトップAPUの位置付けが少しずつ変わってきているような印象です。
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
---|---|---|---|---|
Ryzen 7 5700G | 8/16 | 3.8/4.6 | 65W | Radeon Graphics 8 |
Ryzen 7 5700GE | 3.2/4.6 | 35W | ||
Ryzen 5 5600G | 6/12 | 3.9/4.4 | 65W | Radeon Graphics 7 |
Ryzen 5 5600GE | 3.4/4.4 | 35W | ||
Ryzen 5 5500 | 3.6/4.2 | 65W | - |
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
---|---|---|
G | 65W | デスクトップAPU |
E | 35W | 低消費電力 |
デスクトップAPUの命名規則は非常にシンプルです。まず、全てのデスクトップAPUにGが付きます。そして、低消費電力モデルにはさらにEが付きます。
また、先ほどもお話ししましたが、2022年4月にiGPUを持たないRyzen 5 5500が新たに仲間に加わりましたので、APUとCPUの決定的な違いがこれにより崩れたことになります。
発売年月 | 2021/01 |
---|---|
シリーズ名 | AMD Ryzen 5000 シリーズ ・モバイル・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 3 |
GPUコアアーキテクチャ | GCN (Vega) |
開発コードネーム | Cezanne Lucienne (Zen 2) |
プロセスルール | 7nm |
対応メモリ | DDR4-3200 LPDDR4X-4266 |
PCIe | 3.0 |
シングルスレッド性能が大きく向上したZen 3アーキテクチャを初めて採用したのが、ノートAPUのRyzen 5000 シリーズ・ノートAPUです。他にも様々な改善がなされているため、トータルの性能も前世代であるRyzen 4000 シリーズ・ノートAPUから大きくパワーアップしました。
ただ、GPUコアアーキテクチャは前世代と同じGCNベースのVega(ヴェガ)ですので、それほど大きな差はありません。
また、この世代は少し複雑な構成となっています。実はRyzen 5000 シリーズ・ノートAPUと同日にRyzen 4000 シリーズ・ノートAPU世代と同じZen 2アーキテクチャで作られた、コードネームでLucienne(リュシエンヌ)と呼ばれる3つのAPUも発売になっているのです。
つまり、LucienneはRyzen 5000 シリーズ・ノートAPUの仲間ながらベースは1世代前で、さらに多少の改良も施されていますので、いわば第3.5世代といった立ち位置になるということです。ご注意下さい。
Cezanne | ||||
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
---|---|---|---|---|
Ryzen 9 5980HX | 8/16 | 3.3/4.8 | 45+W | Radeon Graphics 8 |
Ryzen 9 5980HS | 3.0/4.8 | 35W | ||
Ryzen 9 5900HX | 3.3/4.6 | 45+W | ||
Ryzen 9 5900HS | 3.0/4.6 | 35W | ||
Ryzen 7 5800H | 3.2/4.4 | 45W | ||
Ryzen 7 5800HS | 2.8/4.4 | 35W | ||
Ryzen 7 5800U | 1.9/4.4 | 15W | ||
Ryzen 5 5600H | 6/12 | 3.3/4.2 | 45W | Radeon Graphics 7 |
Ryzen 5 5600HS | 3.0/4.2 | 35W | ||
Ryzen 5 5600U | 2.3/4.2 | 15W | ||
Ryzen 3 5400U | 4/8 | 2.6/4.0 | Radeon Graphics 6 |
Lucienne | ||||
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
---|---|---|---|---|
Ryzen 7 5700U | 8/16 | 1.8/4.3 | 15W | Radeon Graphics 8 |
Ryzen 5 5500U | 6/12 | 2.1/4.0 | Radeon Graphics 7 | |
Ryzen 3 5300U | 4/8 | 2.6/3.8 | Radeon Graphics 6 |
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
---|---|---|
HX | 45+W | ハイパフォーマンス +オーバークロック対応 |
H | 45W | ハイパフォーマンス |
HS | 35W | |
U | 15W | 低消費電力 |
TDPとサフィックスについては、比較的分かりやすい関係といえるでしょう。基本的にはHが高性能なハイパフォーマンスを、Uが低消費電力を意味しています。
ただ、Hには上位クラスで使われているTDP45W以上のHXと、ミドルクラス以下で使われる45WのHがあって、これらとモデルナンバーの数字が同じで低消費電力版のようなポジションにある35WのHSの計3種類が存在します。
つまり、45W+モデル、あるいは45Wモデルとその低消費電力版の35Wモデルがペアとして存在するということですが、35WはノートAPUとしては高めのTDPですので、性能差はそれほどありません。
また、先ほどお話ししたコアアーキテクチャの異なるLucienne世代のCPUとは、Ryzen 7 5700U、Ryzen 5 5500U、Ryzen 3 5300Uの3つのCPUのことです。
表からも分かるかと思いますが、CezanneにはLucienneとは百の位の数字が1つだけ大きい良く似たモデルがありますので、注意が必要です。
発売年月 | 2020/11 2022/04 |
---|---|
シリーズ名 | AMD Ryzen 5000 シリーズ ・デスクトップ・プロセッサー |
コアアーキテクチャ | Zen 3 |
GPUコアアーキテクチャ | - |
開発コードネーム | Vermeer |
プロセスルール | 7nm |
ソケット (デスクトップ) | Socket AM4 |
対応チップセット | AMD 500シリーズ AMD 400シリーズ AMD 300シリーズ |
対応メモリ | DDR4-3200 |
PCIe | 4.0 |
マルチスレッド性能では定評のあったAMDでしたが、Ryzen 5000シリーズ・デスクトップCPUによって、ついにシングルスレッド性能でもライバルIntel(第10世代Core)に勝利を収めました。
Ryzen 5000シリーズ・デスクトップCPUは2020年11月に登場しましたが、当初はRyzen 9 5950X、Ryzen 9 5900X、Ryzen 7 5800X、Ryzen 5 5600Xの4モデルのみという寂しいラインアップでした。しかし、そのどれもがそれぞれの価格、性能帯でライバルを圧倒した訳ですから、まさに少数精鋭と呼ぶに相応しい布陣だったいえるでしょう。
その後、1年半ほどの時を経て、新たな仲間が加わりました。Ryzen 7 5800X3D、Ryzen 7 5700X、Ryzen 5 5600、Ryzen 5 5500の4モデルです。
中でも注目を集めたのはRyzen 7 5800X3Dです。このCPUはRyzen 7 5800Xよりも少しクロック周波数が下げられたため、各種ベンチマークテストで遅れを取るデータを多く見かけます。しかし、AMDはこのCPUを最高のゲーミングCPUとアピールしているのです。
その理由は3D V-Cacheと呼ばれる縦に積まれたL3キャッシュメモリにあります。Ryzen 7 5800X3Dはこの技術を使って、Ryzen 7 5800Xの3倍に当たる96MBもの大容量L3キャッシュを備えているのです。そのため、キャッシュが良く効くソフトにおけるRyzen 7 5800X3Dは、スペック以上のパフォーマンスを発揮することになるという訳です。しかも、ハイスペックCPUにしては消費電力が比較的低いため、ワットパフォーマンス(電力効率)にも定評があります。
とはいえ、そのポテンシャルを遺憾なく発揮できるソフトはあまり多くはありませんので、過度の期待は禁物です。
CPU名 | C/T | クロック | TDP | iGPU |
---|---|---|---|---|
Ryzen 9 5950X | 16/32 | 3.4/4.9 | 105W | - |
Ryzen 9 5900X | 12/24 | 3.7/4.8 | ||
Ryzen 7 5800X3D | 8/16 | 3.4/4.5 | ||
Ryzen 7 5800X | 3.8/4.7 | |||
Ryzen 7 5700X | 3.4/4.6 | 65W | ||
Ryzen 5 5600X | 6/12 | 3.7/4.6 | ||
Ryzen 5 5600 | 3.5/4.4 | |||
Ryzen 5 5500 | 3.6/4.2 |
サフィックス (末尾のアルファベット) | ||
---|---|---|
X | 高性能 | |
無印 | 通常モデル |
AMD SenseMIテクノロジー とは、CPUの電圧や温度、クロック周波数などに関する技術の総称です。代表的な機能には、以下のようなものがあります。
負荷があまり掛かっていない時に、消費電力を下げつつもパフォーマンスは下げないという、効率的な働きを行う機能です。
負荷に応じて、リアルタイムでクロックを上げ下げする機能です。IntelのTurbo Boostと似たような機能ですが、TBは100MHz単位で、こちらは25MHz単位で動作するため、より細かい制御が可能になります。
AMDはかつてTBに相当する機能をTurbo CORE(ターボコア)と呼んでいましたが、現在はPrecision Boostに置き換わったようです。
直訳すると拡張周波数帯域となります。しっかりとした冷却システムで充分に冷やされていれば、最大クロックの枠を超えて、さらなるブーストが掛かる機能です。
これらだけではありませんが、以上が主な機能となります。
CPUの性能はクロック周波数に比例し、クロックは電力や熱と比例するため、性能を発揮するにはこれらの管理が非常に重要になりますが、AMD SenseMIテクノロジーとは、まさにその管理の中核を担う技術の集まりなのです。