AMD社のRadeonのGPUの特徴といえば、発色の鮮明さが挙げられるでしょう。その点で、映像の綺麗さを追求するならRadeonが良いというのが一般的な評価となっています。
ただし、ドライバ(ハードを動かすためのソフトウェア)がやや不安定な点と、独自技術の完成度があまり高くない点などが欠点といえるでしょう。
とはいえ、GeForceのページでもお話しした通り、世代ごとGPUごとに出来は変わってくるので、メーカーだけで全てが判断できる訳ではありません。
ここでは、そんなRadeonブランドのGPUについて、お話ししようと思います。
それでは、実際の製品を例にスペックの見方についてお話ししましょう。
Radeon RX 7000シリーズの最上位クラス、Radeon RX 7900 XTXのスペックの一部を以下に挙げます。
GPU名 | Radeon RX 7900 XTX |
---|---|
開発コードネーム (アーキテクチャ) | Navi 3x (RDNA 3) |
コア | |
コア(SP)数 | 6144 |
レイアクセラレーター数 | 96 |
ベースクロック | - |
ゲームクロック | 2300 MHz |
ブーストクロック | 2500 MHz |
メモリ | |
VRAM | 16 GB |
Infinity Cache | 96 MB |
タイプ | GDDR6 |
速度 | 20 Gbps |
バス幅 | 384 bit |
帯域 | 960 GB/s |
その他 | |
TDP | 355 W (8pin x 2) |
DirectX | 12 |
データの基本的な見方については、GPU(グラフィックボード)でお話ししていますので、参照してみて下さい。
また、Radeon / GeForceのGPU性能については、GPU(グラボ)比較&ランキングで詳しく知ることができますので、是非チェックしてみて下さい!
GPU名は、ある規則に従って付けられています。名前を構成する文字列、数字の意味について、お話しします。
Radeon(レイディオン、ラデオン)はAMD社のPC向け / 個人向けのGPUのブランド名です。
NVIDIAにはQuadroというプロ向け / 企業向けのGPUブランドがありましたが、AMDにもFirePro(ファイアプロ)という同じような方向性のブランドがあります。QuadroもFireProもDirectX向けには作られていませんので、ゲーム用途には不向きであることは覚えて帰って下さい。
RXは、格や等級を表す文字列です。
以前はR + 数字という表記がされていました。最高位がR9で、以下R7やR5、R3などというようにです。つまり、CPUやAPUのような性能も表すブランド名だった訳です。
それが、現在はRXで統一されるようになりました。
ちなみに、真偽のほどは分かりませんが、このXはローマ数字の"10"を意味していて、R10を表しているなどという説もあるようです。
GeForceでもそうでしたが、GPU名が持つ数字には、2つの意味が含まれています。 1つは世代で、もう1つは相対的な性能です。
数字 | シリーズ名 |
---|---|
300番台 | Radeon Rx 300シリーズ |
400番台 | Radeon RX 400シリーズ |
500番台 | Radeon RX 500シリーズ |
- | Radeon RX Vegaシリーズ |
- | Radeon VII |
5000番台 | Radeon RX 5000シリーズ |
6000番台 | Radeon RX 6000シリーズ |
7000番台 | Radeon RX 7000シリーズ |
最上位桁が同じGPUは、同じシリーズ、世代でくくられます。例えば、百の位が5ならば、Radeon RX 500シリーズなどと呼ばれる訳です。
現在はもうあまり見掛けなくなりましたが、300番台の数字を持つRadeon Rx 300シリーズは前項でお話ししたR + 数字でブランドを表していた最後の世代になります。xが小文字なのは、数字が入ることを表しています。
その後の400番台と500番台は、最上位桁の数字で世代を表し、下2桁の数字で相対的な性能を表していました。数字が大きいものほど、そのシリーズにおける性能も高いということです。以下に、おおざっぱな分類を挙げます。
数字 | スペック |
---|---|
x80以上 | ハイクラス |
x70、x60 | ミドルクラス |
x50以下 | ロークラス |
分類上は上記のようになりますが、率直にいって、GeForceのGPUに比べて性能的にやや劣るため、ハイクラスRadeonでもミドルクラスGeForce程度の性能に留まることも多い点に注意が必要です。
さて、分かりやすい命名規則を持っていたRadeonでしたが、RX 500シリーズの次世代に当たるRadeon RX Vegaシリーズからは、名前の付け方が目まぐるしく変わるようになってきました。
RX Vegaシリーズについては、この後のコアの項目で、お話しします。
Radeon VII(セブン)は、独特なGPUです。前世代RX Vegaシリーズの改良版といったGPUなのですが、1モデルしかないため、シリーズを構成していないのです。
名前に含まれる「VII」はプロセスルールが7nmであることが由来のようですが、第2世代Vega = V(ega) IIという説もあるようです。真偽のほどは分かりませんが、後者はなかなか面白い話ではあると思います。
Radeon VIIの次の世代では、大きな変化が訪れました。基本的な設計が変わったのですが、この点については後ほどお話しします。
GPU名の数字に話を戻します。最新世代は7000番台の数字を持つRadeon RX 7000シリーズですが、まだ登場して間もないため、Radeon RX 7900 XTXとRadeon RX 7900 XTの2種類しかありません。よって、1つ前のRadeon RX 6000シリーズを例に取ります。
世代全体がRadeon RX 6000シリーズとしてまとめられていますが、上位2桁目の数字が同じモデルもそれぞれ独立したシリーズのように扱われています。例えばRadeon RX 6950XTとRadeon RX 6900XTは、Radeon RX 6900シリーズのGPUということになる訳です。
また、上位2桁目の数字が同じ場合は上位3桁目の数字で性能の上下関係が決まりますが、サフィックス(接尾辞: 末尾の文字)によって決めるパターンもあります。Radeon RX 6800 XTとRadeon RX 6800の関係がそれで、XTの付くモデルが上位となります。
NVIDIAのGPUコアはCUDA(クーダ)コアと呼ばれていますが、一般的にはシェイダープロセッサ(Shader Processor)、あるいはストリームプロセッサ(Stream Processor)などと呼ばれています(以下SP)。
AMDではSPのまま呼んでいましたが、近年は64基のSPを1つにまとめたものをCompute Unit(コンピュートユニット)、さらにそのCUを含めたいくつかの装置をまとめたものをShader Engine(シェイダーエンジン)と呼び始めました。
各CUやSEごとに様々なハードウェアを割り当てて共有させることで小さなGPUのように扱い、GPU全体が小さなGPUの複合体となるような構造にしているのです。
さて、前項でRadeon RX Vegaシリーズの数字について触れましたが、同シリーズの2つのモデルRadeon RX Vega 64とRadeon RX Vega 56の数字は、まさにこのCUの数を表しているのです。
RX Vega 64のSP数は64 x 64 = 4096で、RX Vega 56のSP数は56 x 64 = 3584ということです。
この方式は、Vega世代のノート向けGPUでも使われていますので、覚えて帰って頂ければと思います。
コアクロックには、通常時のベース(定格)クロックと高負荷時のブーストクロックの2種類があります。CPUもGPUも負荷に応じてクロック周波数を変動させるため、このように分かれているのです。
GeForceのブーストクロックは、引き上げが起きた際に平均的に到達するクロックを表しますが、Radeonの場合は最大クロックを表しますので、ご注意下さい。
また、Radeon RX 5000シリーズからはゲームクロックという概念が追加されましたが、これはゲームプレイ時の平均動作クロックを意味します。
基本的なことはGPU(グラフィックボード)やGeForceのVRAMの項目でお話ししていますので、参照してみて下さい。
Radeon RX 7900 XTXのVRAMには、GDDR6という規格のメモリが使われています。GDDR6は、現在のグラボのVRAMとしては標準的な規格です。
しかし、旧世代のRadeon VIIやRadeon RX Vega 64 / 56などのVRAMには、HBM2(High Bandwidth Memory 2)という規格が使われていました。
これは速度は遅いのですが、その名の通り、メモリバス幅が広いタイプで、全体として高速に動作するタイプのメモリです。
立体構造を取るため、面積を小さくできたり、また消費電力面でもメリットがありますので、できれば採用したいところなのですが、価格が高いため、一部のハイスペックGPUにしか使えないのが現状です。
さて、Radeon RX 7900 XTXのメモリ帯域(データ転送速度)は
20 x 384 [Gbit/sec]
= 7,680 [Gbit/sec]
= 960 [GByte/sec]
(1Byte = 8bit)
となります。
また、GPU用のメモリであるVRAMには、GPUによって通常容量と半減容量の2つのタイプが混在するものもありますので、注意が必要です。
RX 500 / 400シリーズは大半がこのタイプで、当然一般的には容量が大きい方が高価となります。購入する際には、しっかりと確認した方が良いでしょう。
Radeon RX 7900 XTXの消費電力は355Wで、必要な補助電源は8pin x 2となっています。
供給可能な電力は、PCI-Expressスロットからは75W、6pin補助電源からも75W、8pin補助電源からは150Wですので、PCI-Expressスロットと8pin x 2からの電力供給能力は最大375W(75W + 150W x 2)になります。
容量に関しては、メーカーがOC(オーバークロック: クロック周波数の上昇)を行っていたり、オリジナルクーラーを使用していたりするなど、独自の改良を行って消費電力が増加している場合や、また消費電力は常に一定ではないため、ある程度の余力も必要となりますので、大きめの容量を考えなければなりません。
よって、GPU自体に定められた消費電力ではなく、グラフィックボードごとの消費電力を確認することが重要になります。
グラボは、メーカーや製品のコンセプトにより、冷却重視、静音重視、性能重視など様々なモデルが販売されていますので、良く調べて自分の目的に見合った製品を購入しましょう。
さて、ここからはAMDのGPUアーキテクチャについて、お話しします。概要は、アーキテクチャでお話ししていますので、参照してみて下さい。
以下に、近年のアーキテクチャを記載します。
マクロ アーキテクチャ (読み方) | コア アーキテクチャ | プロセス ルール | 採用世代 |
---|---|---|---|
Polaris (ポラリス) | 第4世代GCN | 14nm | Radeon RX 400シリーズ Radeon RX 500シリーズ |
Vega (ヴェガ) | 第5世代GCN | Radeon RX Vegaシリーズ | |
7nm | Radeon VII | ||
Navi (ナヴィ) | RDNA | Radeon RX 5000シリーズ | |
Navi 2x | RDNA 2 | Radeon RX 6000シリーズ | |
Navi 3x | RDNA 3 | 5nm / 6nm | Radeon RX 7000シリーズ |
AMD GPUのアーキテクチャは少しややこしいため、まずはこの点について、お話ししたいと思います。
いわゆるアーキテクチャとは、表中でいうコアアーキテクチャが該当しますが、CPUでもGPUでもコアのアーキテクチャは正式にはマイクロアーキテクチャと呼ばれます。
GCNとは、Graphics Core Next(グラフィックスコアネクスト)の頭文字を取った言葉です。改良が重ねられ、最新のGCNは第5世代です。
また、GCNは初代をGCN 1.0としていましたので、第5世代であればGCN 1.4というような表記をすることもあります。ただ、近年は第X世代GCNという呼び方の方がメインのようです。
それに対し、マクロアーキテクチャとは、マイクロアーキテクチャの1つ上のくくりで、コアなどが載るチップに対するアーキテクチャというような意味です。Radeon RX 400シリーズのPolarisマクロアーキテクチャから採用されました。
ただし、一般的には、これらを厳密に区別する必要もありませんので、Polarisを単にアーキテクチャと呼ぶことの方が多いようです。
さて、Polarisマクロアーキテクチャは、RX 400シリーズの次のRadeon RX 500シリーズでも引き続き採用されました。というよりは、RX 500シリーズはRX 400シリーズのプチ改良世代ですので、スペックも性能もほぼ同じだったのです。
しかし、その次のVegaマクロアーキテクチャは、GCNアーキテクチャも世代が1つ進んで進化を見せましたが、何より大きな違いはハイエンドモデルが登場したことにあります。
実は、Polaris時代のGPUは全てミドルクラスで、ハイクラスに属するはずのRX 590でさえもスペック的にはミドル級だったのです。
逆に、Vega時代はミドル以下のGPUがありませんから、この2世代(3シリーズ)は合わせて1世代のようなところがあるかもしれません。
その後、プロセスルールが7nmに微細化されたRadeon VII(7)が登場しましたが、プロセスルール以外の基本的な部分は、RX Vegaシリーズと変わりありません。
2019年7月にはRadeon RX 5000シリーズが登場しました。
マクロアーキテクチャはNaviといいますが、この世代からマクロアーキテクチャという言葉があまり使われなくなって、単にアーキテクチャや開発コードネームといった呼び方になった印象です。とはいえ、意味合いが変わった訳ではありませんから、特に気にする必要もないと思います。
Naviの特徴は、ゲーム向けのGPUという点にあるでしょう。これは、ゲーム向けに開発された新マイクロアーキテクチャRDNA(Radeon DNA)がもたらした特徴です。
前アーキテクチャGCNは、GPGPU(GPUをCPUのように汎用的に扱う技術)向けに開発されたコアでした。よって、GPUの性能としては高いものの、ゲーム性能があまり伸びず、ゲームをメインターゲットとしているライバルNVIDIAのGeForceブランドに勝てなかったのです。
Naviはゲーム寄りにシフトしたため、GPGPU向けの性能はGCNに比べてダウンしているのですが、一般ユーザーにとって高性能GPUを必要とする用途といえば、ほぼゲームといっても過言ではありませんから、Naviの路線変更はメリットといって良いかと思います。
実際、Radeon RX 5000シリーズはSP数から見るとミドルクラスですが、充分過ぎるほどのゲーミングパフォーマンスを見せています。
そして、2020年11月に登場したのが、開発コード名Navi 2xのRadeon RX 6000シリーズです。Navi 2xの正しい読み方は分かりませんが、この後お話しする開発コードネームとの兼ね合いもありそうです。また、ちなみにですが、以前はNavi 2xではなくBig Naviと呼ばれていました。
マイクロアーキテクチャは前世代のRDNAを一歩進めたRDNA 2で、全体的なパフォーマンスも順当に進化したのですが、何よりも大きいのはこの世代はハイクラスを含むという点です。
Radeon RX 5000シリーズの最高スペックGPUがRadeon RX 5700 XTだったのに対して、Radeon RX 6000シリーズの内、最初に発表された3つのGPUは、Radeon RX 6900 XT、Radeon RX 6800 XT、Radeon RX 6800で、特にRadeon RX 6900 XTに関してはRadeon RX 590以来の9の数字を持つハイエンドモデルとなったのです。
また、その性能もライバルNVIDIA GeForceの対抗ブランドに迫るなど、もはやゲームはGeForceという常識は崩れ去ろうとしているといっても過言ではないでしょう。
2年後の2022年12月に登場したのが、開発コード名Navi 3xのRadeon RX 7000シリーズです。名称に関しては、前世代から数字が1つずつ増えただけですので、分かりやすいかと思います。
表中における大きな違いといえば、プロセスルールということになるでしょう。微細化が進んで、性能向上に寄与した形となっていますが、5nmと6nmの2つの数字が並んでいます。
これまでAMDのGPUは、1つのダイ(チップ)にコアやメモリなどを全て詰め込んでいましたが、この世代からはコアとメモリを別のダイに分離してそれらを1つにパッケージ化するという構造を取るようになったのです。この構造のことをチップレットと呼びますが、5nmはコア用のダイ、6nmはメモリ用のダイに使われるプロセスルールとなります。
チップレットの採用により、製造コストを大幅に減らすことが可能になったとのことです。
基本的なことは、開発コードネームでお話ししていますので、分からないことなどは、そちらを参照してみて下さい。
以下に、ここ数世代のGPUのアーキテクチャと開発コードネームとGPU名を挙げますが、データが錯綜しているため、正確性はあまりない点にご注意下さい。
アーキテクチャ | 開発コードネーム | GPU名 |
---|---|---|
Polaris (第4世代GCN) |
Polaris 10 XT | Radeon RX 480 |
Polaris 10 PRO | Radeon RX 470 | |
Polaris 11 | Radeon RX 460 | |
Polaris 20 XTX | Radeon RX 580 | |
Polaris 20 XL | Radeon RX 570 | |
Polaris 21 | Radeon RX 560 | |
Polaris 12 | Radeon RX 550 | |
Polaris 30 XT | Radeon RX 590 | |
Vega (第5世代GCN) |
Vega 10 XT | Radeon RX Vega 64 |
Vega 10 XTX | Radeon RX Vega 56 | |
Vega 20 | Radeon VII | |
Navi (RDNA) |
Navi 10 XT | Radeon RX 5700 XT |
Navi 10 XL | Radeon RX 5700 | |
Navi 10 XLE | Radeon RX 5600 XT | |
Navi 10 XE | Radeon RX 5600 | |
Navi 14 XTX | Radeon RX 5500 XT | |
Navi 14 XT | Radeon RX 5500 | |
Navi 2x (RDNA 2) |
Navi 21 KXTX | Radeon RX 6950 XT | Navi 21 XTX | Radeon RX 6900 XT |
Navi 21 XT | Radeon RX 6800 XT | |
Navi 21 XL | Radeon RX 6800 | |
Navi 22 KXT | Radeon RX 6750 XT | |
Navi 22 XT | Radeon RX 6700 XT | |
Navi 22 XL | Radeon RX 6700 | |
Navi 23 KXT | Radeon RX 6650 XT | |
Navi 23 XT | Radeon RX 6600 XT | |
Navi 23 XL | Radeon RX 6600 | |
Navi 24 XT | Radeon RX 6500 XT | |
Navi 24 XL | Radeon RX 6400 | |
Navi 3x (RDNA 3) |
Navi 31 XTX | Radeon RX 7900 XTX | Navi 31 XT | Radeon RX 7900 XT |
現在のAMD製GPUの開発コードネームはマクロアーキテクチャ + 数字(+ 文字列)で構成されていますが、十の位の数字が世代を表しています。また、一の位の数字が小さいほどハイスペックですから、これが相対的な性能を意味しているようです。
この辺りは、NVIDIAの命名規則と良く似ているといえるでしょう。ということは、マクロアーキテクチャ + 数字が同じGPUは、全て同じチップを使っている双子、三つ子の関係にあると見て良いと思います。
実はCPUやGPUなどでは、同じ半導体チップの内、品質チェックの結果求める水準を超えられなかったものなどを、スペックに制限をかけたりして異なるCPU / GPUとして販売するのです。
最後の文字列は、その制限によって付けられた性能の差を表すものです。伝統的にKXTX > XTX > XT > XL (またはPRO) > XLE > XEというような序列となっているようです。
また、手が加えられず、スペックを落とされなかったチップのことをフルスペック版と呼んだりします。